野のユリ

ふと今朝浮かんだ心象風景。
黒人のひょうきんな男が、ふとしたことから教会を立てることになる物語。
エントツの上だったか、誰も見ることのないコンクリートに自分の名を刻み満足そうにはしごを降りていく。アーメンでなく黒人霊歌のエイメンと言わすことも面白かった。

水を貰いに寄っただけのホーマー(ポワチエ)を修道院長(リリア・スカラ)が神様の導びきでやってきた男だと信じ込み、人の良いホーマーが次第に引き込まれていくさまが絶妙。そして人の善意を信じ続けた修道院長だからこそきっと奇跡が起きたのだろう。

野のユリ(ALLシネマ データベース)

思えばあれが僕が初めて見たボランティアの映画だったのかもしれない。終わった後の清々しさ、話の後を思いやりふと口元が緩む。

ぜひチュプキ・タバタでもかけてほしい作品である。

そんなユニバーサルシアター チュプキ・タバタは国内で初めて本格稼働する常設の音声ガイド付き映画館を目指している。

ぜひ、ご賛同いただきたい。  【拡散希望】

シティライツ(Facebook)

チュプキタバタ(建築中)

シティライツ チュプキ タバタ 建設のためのお願い

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映画祭物語『思い出そう 大切なこと』 エピローグ

エピローグ
「よぉーっ、パン!」
今年は短く一本締めでと誰かが声をあげ、ボランティアスタッフ、実行委員たちの気が一つになる。
閉館した博物館の静けさとは、対照的にまだ冷めやらん熱気に溢れている。

「最高の1日だったね。」元気がエルザに話しかける。
「うん、でも夏休みももっと最高になるかもね。」元気がエルザの肩を抱く。
「楽しみだよ、アフリカ。ライオンパークでエルザの甥っ子か姪っ子を抱っこ出来るかもしれないからね。」
そう言うと、エルザの頬にキスをした。
「くぅーん。」クラレンスが何か言いたげに尻尾を振った。

映画祭物語『思い出そう 大切なこと』おわり

 この物語を読んでくださった皆さま、本当にありがとうございました。

私は、今日から新しい職場で第一歩を踏み出します。

また、何処かでみなさんにお会い出来る事を楽しみにしています。

本当にありがとうございました。

余談ですが・・・。スカウト、拒みませんので小説家デビューの話があったらいつでもお受けいたします。(笑)

では、また。

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映画祭物語『思い出そう 大切なこと』 第6章 シティライツ映画祭

映画祭ブログ担当 ながたです。

昨日は、本当にありがとうございました。

残念ながら参加できなかった方にも、ほんの少しでも楽しんでいただけたらと思い最後の章を書きました。 どうぞ、続きをお楽しみください。

13時15分
『素晴らしき哉、人生』の上映が終了した。
ロビーは、再び大声の案内が飛び交う。
14時10分
『奇跡』上映5分前
お客さま達の入場も大方終わり、ロビーはまた静けさを取り戻す。

案内板を持った笑子がホールに戻ってくる。
「あれ、あかりさんと松五郎は? はなさんは休憩?」
元気が、実行委員のいないことにようやく気づく。
「ショコラティエの容態が急変したの。」
佐緒里が事情を説明する。

「ごめんなさい、突然出て行ってしまって。」
あかりが松五郎、はなと一緒に戻ってきた。
「ショコラティエは大丈夫なの?」
エルザが心配そうに尋ねる。
「ありがとうございます。松五郎くんが駆けつけてくれたおかげで、危険な状態からは脱したって。」
はなが応える。

ボランティアスタッフたちは、それぞれ、映画や休憩室に行き、ロビーは実行委員だけになった。
「今は、実行委員だけかい?」音松がたずねる。
「ええ、そうです。」七海が応える。
「さっき、CDを売るための音楽が流れていたけどその再生機はあるかい?」
「ええ、準備が出来ています。」七海が一枚のSDカードを出し、再生機にセットする。
「はなさん、松五郎くん、いいかしら・・・。」七海が緊張した表情を浮かべている。
「やめてください。」あかりが険しい顔でとめる。
「ワゥ、ワゥ。」松五郎が鳴く。
「クラレンス!」あかりが一括すると、松五郎は黙り、静かにお座りをした。
元気は、何が起きたのかわからない様子で成り行きを見守っている。
あかりが、静かに話し始めた。
「松五郎は、もう話をすることが出来ません。」
皆が松五郎をみる。
「ショコラティエを助けるために、特別な能力を捨てたの。」
あかりが話しを続ける。
「松五郎の本当の名前は、クラレンス。『素晴らしき哉、人生』の2級天使と偶然にも同じ名前。そして、言葉をしゃべると言う奇跡の能力を持っていた。」
クラレンスが、あかりの足元に伏せをする。
「だから、今回の映画祭でも奇跡を起こそうとしていたのよね。」
あかりが、クラレンスを見やる。
「でも、今朝、全員で江島杉山神社にお詣りをしたとき。松五郎はその奇跡を願ったの。」
「私は、ショコラティエが元気になることを願った。」はながうつむく。
「でも、それは奇跡だったの。」七海が話しをうける。
「だから、松五郎、いえ、クラレンスは自分が持っている奇跡の能力と引き換えにショコラティエを救おうと思ったのね。」
「ごく、普通の盲導犬になったのね。よかったじゃない、クラレンス。」エルザが、うれしそうに話す。
「奇跡から生まれた私が言うのだから間違いないわよ。奇跡の能力なんていらない。ショコラティエも元気・・・。」一瞬元気を見る。
「元気になったのだから最高にHAPPY!」

「そうかい、良かった。」
「あ、そうだ。」笑子がひらめく。
「もうすぐ、新幹線がすれ違うシーンよ。実行委員の仕事もあと数時間、来年の映画祭の無事を祈らない?」
「それはいいアイディア。」佐緒里がうける。
その時、ホールから新幹線の音が漏れ聞こえてきた。
「さあ、願おう!!来年の奇跡を!」

第6章 シティライツ映画祭 おわり。

 

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映画祭物語『思い出そう 大切なこと』第6章 シティライツ映画祭

映画祭ブログ担当 ながたです。

本日はありがとうございました。

みなさまのおかげでとても素敵な映画祭になりました。

あと、もう少しで完結です。

いましばらくおつきあいください。

8時30分

江戸東京博物館の駐車場には、黒いシティライツのTシャツを着たボランティアたちが集まっている。総勢95名。
久しぶりに参加するボランティア達は、懐かしい仲間と旧交をかわし、初めて参加するボランティアたちの表情は緊張している。
「みなさん、おはようございます。」
リーダーが話し始める。
「ここは、後ろに電車が走るので、全体ミーティングはロビーに入ってからにします。まずは個別の班毎に集合してください。」
真っ赤なTシャツを着た佐緒里、音松、元気、エルザ達が自分の担当部門のボランティアを集める。
前日の夜に大方の準備が完了している為、それぞれの説明もスムーズに進む。

あかりにぴったり寄り添う松五郎は、はなの方をみつめている。
「ショコラティエちゃんは、大丈夫だろうか。」
パソコンを上手く使えなかった事、最後にはなさんにお願いしなければならなかった事に心を痛めさせてしまった。
自分の班の説明を終えたはなが、松五郎のもとにゆっくり歩いてくる。
「悪い知らせだ。」
松五郎は直感的に思った。
はなは、松五郎の傍らに立つとメモを見せた。
「ショコラティエ、今、入院しているけど、きっと大丈夫。」
「僕がいけないんだ。僕がショコラティエちゃんに無理強いしたからだ。」
松五郎は心の中で悔やんだ。
「大好きなショコラティエちゃんにもしもの事があったら、僕は、もう、盲導犬では・・・お姉さんごめんなさい。」

9時。
館内へ入る扉が開く。
ボランティア達が、ホールロビーに入る。
「では、全体ミーティングを始めます。」
リーダーの声が響く。
「今日は、よろしくお願いします。いろいろマニュアルがありますが、まあ、一番のマニュアルは臨機応変と言うことでよろしくお願いします。」
それぞれが自分の持ち場に着く。
「ラジオの使い方は・・・。」
「大きい荷物は休憩室へ・・・あ、貴重品は持ってね。」などなど、
いろんな大声が飛び交う。

「あと5分で開場です。スタンバイは大丈夫?」
佐緒里のひと際大きい声に、スタッフの間に緊張が走る。
「いよいよだ。」元気は大きく深呼吸した。
音松、はな、笑子、そしてエルザの表情が引き締まる。
ガラス張りのホールロビーの外には、既に開場を待つ人々の列が出来ている。

10時。
「開場します。」佐緒里の声の合図でロビーの扉が開く。
「ラジオの貸出しこちらでーす。」
「シティライツTシャツ販売してまーす。」
「福島県いわき市 ゆかりへの募金はこちらでーす。」
シティライツ映画祭恒例の大声の案内が一斉に始まる。

松五郎は、案内板を持つ、あかり、七海と一緒に両国駅近くの交差点に立っている。
「松五郎くん、大丈夫?」
七海が松五郎の心に問いかける。
「大丈夫じゃない。でも、僕はどうすればいいのかわからない。」
「私は、解る。ハーネスについている天使のクリスマス飾りを届けてベルを鳴らして。」
「でも、僕は盲導犬なんだ。お姉さんのそばを離れる事は絶対に出来ないんだ。」
「それは、大丈夫。すぐに知らせがくる。ショコラティエのもとに行かれるわ。私の感を信じて。」
その時、あかりの携帯電話が鳴った。
「はい、えっ? わかりました。」
あかりが、電話を切ると、
「七海さん、ここは一人でお願いして大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫です。」
「ショコラティエの容態が危険らしいの。それで、はなさんと受付を代わることになったの。」
「わかりました。」
「ショコラティエちゃん。」
松五郎は、心の中で祈った。

11時
大輔&めーたんがステージに登場する。
そして、正面左の小さなスクリーンには、聴覚障がい者のための要約筆記の文字が並ぶ。
まずは、ステージの広さの説明。大輔さんがマイクを使わずステージの前後左右を移動していく。

ロビーでは、遅れてくるお客さんもいるものの、ラジオ係や物販、受付が交代で映画や食事に行き始める。
「笑子さん、ちょっといいかしら。」
あかりが笑子に話しかける。
「ええ、何ですか。」
「この前、頂いたベルなんだけど・・・。」
あかりが、バックの中から木箱に入ったベルを取り出す。
松五郎が尻尾をピクッとさせる。
「音が出なくなってしまったの。」あかりが、ベルを差し出す。
ベルを確かめる笑子。
「あ、小さなビーズが引っかかってますよ。」
笑子が、ビーズを取り出しベルを鳴らす。
チリンチリン。
「直りましたよ。」
笑子が笑顔でベルを渡す。
松五郎は、思いつめたように尻尾をだらりとしたまま、あかりを見上げる。
「松五郎・・・。」あかりが心配そうにみつめる。
「お姉さん、ごめんなさい。」松五郎が声を出した。
「えっ・・・。」一瞬だけ驚くあかり。
「僕・・・。」
松五郎がしゃべり終える前に、あかりが命令する。
「クラレンス、ゴー。」
松五郎は、我を忘れ歩きはじめる。

11時05分
場内が暗くなり、クリスマス風景のイラスト、鐘の音と共に映画『素晴らしき哉、人生』が始まる。
あかりと松五郎は、JR両国駅からタクシーに乗る。
「クラレンス、グッド。」
あかりが、行き先を告げるとタクシーがゆっくり走り出す。
松五郎の耳元でそっと話し始めるあかり。
「今、病院に向かってるからね、松五郎。」
そう言うと松五郎の首をなでた。

動物病院のケージの中で、ショコラティエが苦しそうにもがいている。
「松五郎さん、ごめんなさい。」
心の中でうわ言をつぶやいている。
はなが、成すすべなく見守る。

11時30分
映画では、主人公の二人が軽快なダンスステップを刻む。
動物病院。
横付けされたタクシーから、あかりと松五郎が降りる。
松五郎よりあかりの方が先に立って歩いている。

ショコラティエを見守るはな。
やってきた松五郎が、ベルを咥えショコラティエの傍らに立つ。
チリンチリン。
松五郎が耳元でベルを鳴らし必死で祈り始める。

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映画祭物語『思い出そう 大切なこと』第6章 シティライツ映画祭

映画祭ブログ担当 ながたです。

いよいよ、映画祭当日を迎えました。

みなさまどうぞ、気を付けてお出かけください。

では、続きをどうぞ。    

第6章 シティライツ映画祭

6月24日 日曜日
東京・両国 朝6時。

「へえ、これが朝青龍(あさしょうりゅう)の手形なんだ。」
エルザと元気が、先日メーリングリストに送られてきたダンさんからのメールをたよりに、江島杉山神社を目指している。
その途中には、両国ならではの力士のブロンズ像が並び、相撲に足跡を残した力士たちの手形が土台を囲んでいる。
エルザは、手形に自分の手を重ねている。
「あれ?おはよう。朝から熱いねえ。」
「おはよう。」佐緒里と音松もどうやら映画祭成功祈願に行くようである。
力士のブロンズ像のある国技館通りを進んでいくと、正面に回向院(えこういん)がある。

「えっと、ここを右に進んで。あれ松五郎とあかりさん、はなさんと笑子さんも一緒。」
佐緒里が3人と一匹の姿をみつける。
「おはよう。お詣り?」
「ええ、映画祭、絶対に成功してほしいもの。」
「みんな一緒ね。行きましょう。」

一ノ橋を渡る。
この辺りに来ると、犬の散歩をしている人の姿がちらほら見える。
「ああ、ここだ。」
建物の間に、ひっそり立つ鳥居。
20メートルほどの参道両側の足元に、北斎の浮世絵がほどこされたライトが並んでいる。

「あれが、点字の石碑かしら。」笑子が石碑に近づいていく。
点字の文字盤の上には杉山検校(すぎやまけんぎょう)の顔のブロンズが埋め込まれている。
「読めるわ。」エルザが石碑の点字を指先でなぞる。
「杉山和一(すぎやまわいち)と総禄(そうろく)屋敷跡。」
元気とはなは、石碑の横にたつ墨字の説明を読み始める。
「ここは江戸時代、関東周辺の・・・。」
黙読する佐緒里、笑子。
「琵琶法師や鍼灸師、按摩などの盲人を・・・。」
音松とあかり、松五郎は元気とはなの声を聴いている。
全員が読み終えたその時。

「みなさん、おはようございます。私は岩窟をお詣りしています。」
心の中に、七海の声が響いた・・・。

岩窟には、江の島の弁財天が分祀されて祀られている。
弁財天は、すべての願い事を叶えてくれるという謂れもある。

そして、全員が岩窟に祀られている弁財天に、来場される皆さまの安全、そして映画祭の成功を祈った。

つづく・・・。

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映画祭物語『思い出そう 大切なこと』 第5章 絆とつながりを誓って

映画祭ブログ担当 ながたです。

本日3回目のブログ更新。 

続きをどうぞ・・・。

「すいません、映画祭準備で忙しい時なのに・・・。」
両国駅近くにある、洒落た喫茶店。
元気が、演劇結社ぽっちゃりぽっちゃりの大輔さんと話している。
大輔さんは明日の映画祭で、奥様のめーたんとともに司会を務めることになっている。
元気が初めて夫妻に会ったとき、全盲の奥さんとの仲睦まじい姿に自分とエルザを重ね合わせた。
元気は、一晩中眠れず大輔さんに自分の事を相談したいと思った。
そして、
「僕は、エルザを一生幸せにしたいと思うけど自信がないんです。」と打ち明けた。

「俺は、めーたんを幸せにする自信があるから結婚したんじゃなくて、幸せにしたいから一緒にいるだけ。それは、音声ガイド作りと同じで、綺麗な上手い文章を作ろうとするとおかしなガイドになっちゃう。伝えなきゃいけない事を一所懸命伝える事だけ考えてりゃあいいってことじゃないか。全盲のエルザちゃんが『誰も知らない』を観た時、子供たちの目が無垢で自然だって、ちゃんと伝わってるじゃないか。それは元気君が伝えたんだろう。」
「ああ、そうか・・・でも、映画が持つ力が心に伝えているのかもしれない。」
「違うな、元気君は気づいていないかもしれないけど、エルザちゃんを大切に思うからこそ伝えなきゃいけない事がちゃんと伝わるんだと思うよ。」
大輔さんが言葉を続ける。
「二人の絆と運命がつながっているからこそ、だと思うな。自信なんていらない、いらない。さあ、早くエルザちゃんを迎えに行きなさい。」
「はい、ありがとうございました。」
元気は立ち上がり、一礼すると足早に店を出て行った。

第5章 絆とつながりを誓って おわり

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映画祭物語『思い出そう、大切なこと』 第5章 絆とつながりを誓って

映画祭ブログ担当 ながたです。

物語も大詰め、今日と明日で完結しなければなりません。

早速、つづきをどうぞ。

     

元気は、画面に眼をやりながら、この部屋でエルザと一緒に是枝監督の『誰も知らない』を観た時の事を思い出していた。
「ごめん、怖い。」
エルザは、震えながら寄り添ってきた。
元気には、最初、どうして怖いのかが理解できなかった。
「このあと、保護されたの・・・。」肩を抱く元気の腕に震えるエルザの振動が伝わってくる。
「怖かったの、どうなるかわからなかったの・・・。」
「アフリカでのこと?」元気は、初めて見せるエルザの弱々しい姿に戸惑いながらそっと、耳元に語りかけた。
「みんな、いなくなったの・・・、食べ物も無くなったのに、誰も帰ってきてくれなかった。」
「大丈夫だよ、大丈夫だから・・・。」元気は、それしか言うことができなかった。

しばらくして落ち着いて、エルザが話してくれた。
「映画の中の子どもたちの目が、本当に無垢で自然で、自分が親と逸れた時と同じ心だと思ったの。」
「そうか・・・。」元気は穏やかに頷いている。
「本当はとても怖いんだけどそれは後から気づくことで、その時は親や周りの人たちをずっとずっと信じつづけるの。」
「そうか・・・。」
「私の場合はライオンが助けてくれたみたい。そうして、今度は、人間が私を保護するためにライオンを遠ざけたの。それでも私はライオンの家族に戻りたくて追いかけたんだけど、歩いても歩いても追いつかなかった。」
「そうか・・・。」
「アフリカでは奇跡から生まれた子どもと呼ばれてたけど。遠く離れた日本では誰も知らない話だけどね。」
「そうか・・・。」
「ねえ、「そうか」ばっかりじゃない。聴いてるの?」
「うん、エルザが日本に来てくれて良かったなあと思って、ありがとう。」元気が、優しく微笑みかける。
エルザは、いつものようにいたづらっぽく微笑むと、
「さて問題です。今のお話の中に、是枝監督の作品タイトルがいくつ含まれていたでしょう?」と、言った。

今朝のエルザの電話での様子や、こうした日々のなかで、元気は二人のこれからについて真剣に考え始めた。

つづく・・・。

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映画祭物語『思い出そう、大切なこと』 第5章 絆とつながりを誓って 

映画祭ブログ担当 ながたです。

布施さん、メッセージ、ありがとうございます。

いよいよ、明日が映画祭、俄然元気が湧いてきました。

では、つづきをどうぞ。

夜、テレビからサイモン&ガーファンクルの冬の散歩道が聴こえてきた。
サイモン&ガーファンクルのライブ映像と共に流れている。

「是枝監督は、親父と同年代なのか。」
元気は、テレビを見ながら独り言を言った。

NHKEテレ、『ミュージック・ポートレート』の今夜のゲストはシティライツ映画祭にも出演して下さる是枝裕和(これえだひろかず)監督とYOUの二人。
「人生で 大切な曲を10曲」を紹介する、その第一夜。
是枝監督が、テレビとの出会いとして紹介した『ウルトラセブン』の曲につづき、映画との出会い、心に残っている曲として紹介したのが
アルバム、ブックエンドに収録されている『冬の散歩道』である。

映画祭パンフレットの紹介文より、監督のプロフィールを紹介します。

是枝裕和

映画監督・テレビディレクター

1962年、東京生まれ。87年に早稲田大学第一文学部文芸学科卒業後、テレビマンユニオンに参加。主にドキュメンタリー番組を演出、現在に至る。

主なテレビ作品に、水俣病担当者だった環境庁の高級官僚の自殺を追った「しかし…」(91年/フジテレビ/ギャラクシー賞優秀作品賞)、一頭の仔牛とこども達の3年間の成長をみつめた「もう一つの教育~伊那小学校春組の記録~」(91年/フジテレビ/ATP賞優秀賞)、新しい記憶を積み重ねることが出来ない前向性健忘症の男性と、その家族の記録「記憶が失われた時…」(96年/NHK/放送文化基金賞)などがある。

95年、初監督した映画『幻の光』(原作 宮本輝、主演 江角マキコ・浅野忠信・内藤剛志)が第52回ヴェネツィア国際映画祭で金のオゼッラ賞等を受賞。2作目の『ワンダフルライフ』(98)は、各国で高い評価を受け、世界30ヶ国、全米200館での公開と、日本のインディペンデント映画としては異例のヒットとなった。

04年、監督4作目の『誰も知らない』がカンヌ国際映画祭にて映画祭史上最年少の最優秀男優賞(柳楽優弥)を受賞し、話題を呼ぶ。06年、『花よりもなほ』で、”仇討ち”をテーマにした初の時代劇に挑戦。08年には、自身の実体験を反映させたホームドラマ『歩いても 歩いても』(主演・阿部寛)を発表、ブルーリボン賞監督賞ほか国内外で高い評価を得る。同年12月には、初のドキュメンタリー映画『大丈夫であるように-Cocco終わらない旅』を公開した。 09年、『空気人形』が、第62回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門に正式出品され、人形が心を持つというラブ・ファンタジーと、メタファーとしての官能を描く«新たなる是枝ワールド»として絶賛される。

つづく・・・。

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映画祭物語『思い出そう、大切なこと』第5章 絆とつながりを誓って

映画祭ブログ担当 ながたです。

映画祭まであと2日。私は、とっても緊張してきました。

みなさんはいかがですか?

物語は、まだ続きますよ!

早速、続きをどうぞ・・・。

      

深夜から降り始めた雨が、早朝になって次第に激しくなってきた。
映画祭まであと2日。
エルザは、雨音が気になり何となく眠れず、実行委員になった事、元気の事を思っていた。
「実行委員になったことは、私の運命が動き出した証なのかもしれない。あの時七海が誘ってくれなかったら元気とは会えずじまいだったかな。」
その時、携帯電話にメールが届いた。
「雨、激しくなって来たけど大丈夫? 今日、準備で事務局に集まるんだろ。授業、午後からだから迎えに行こうか?」
元気からのメール。
携帯電話の音声が、機械的にメールを読み上げる。
エルザは、元気の声が聴きたくなって思わず電話をかけた。
「エルザ、起きてたの?」元気の声が耳に聞こえる。
「うん、雨音が気になって・・・。」
「大丈夫かい?迎えに行こうか?」
「ううん、大丈夫、今日は七海も一緒だし佐緒里さんもいるから。」
「そっか、じゃあ明日・・・になっちゃうか、そっか。」
「うん、そうだね。」
「じゃあ、明日。」
淋しげな余韻を残して電話が切れた。
元気は来春から社会人、私はまだ大学生だし、映画祭が終わったら、「これは夢物語だったのよ。」と何処かから声が聞こえて終わってしまうかもしれない。今も、自分から声が聴きたくて電話したのにそっけない態度をしてしまった。自分でも、素直になれないだけなのか、自分の障がいや境遇を考えて壁をつくってしまっているのかわからないでいる。
また、携帯電話にメールが入る。七海からだ。
「今日午後からになったから、どこかでランチしようよ。その時、悩み聞くからね。」
そして、直ぐに電話が鳴る。七海からだ。
「あ、やっぱり家に行くね。お店で泣かれたら嫌だもん。じゃあね。」
七海は、一方的にしゃべって電話を切った。
エルザは、いつもながら七海の感の良さに正直救われている。
七海は、誰かが悩んでいると感じると直ぐに駆けつけてくれる。私だけではなく、この間は笑子さんも救われたって言ってた。
七海曰く「友達や仲間を大切に思ってるだけ。」との事。
エルザも、七海みたいになりたいと強く願っている。
元気と付き合い始めてから、本当に元気の事を大切に思っているから・・・。

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映画祭物語『思い出そう、大切なこと』第5章 絆とつながりを誓って

映画祭ブログ担当 ながたです。

日々の経過は本当に早いものです。

あと3日で映画祭。寒暖差が激しいですが、くれぐれもお身体大事にされてくださいね。

では、続きです。

 

 

「ふぅーん、今、江戸博では日本橋展をやってるのね。」
先日のボランティア説明会を欠席したはなが、博物館の看板を見ている。
「ええ、だから江戸博にあるカフェやレストランは日本橋にちなんだ特別メニューがあるみたい。」
「ホントだ。えーなになに?」
はなが声に出して読み始める。
「一階、カフェレストラン、日本橋展 オリジナル洋風弁当 だって。他にパスタやレディースランチもあるわ。」
「あ、そういえば緑茶処におうどんもあったわよ、日本橋展にちなんだメニューはないけど前に食べたことがあるわ。」
笑子が頷きながら話している。
「あとは7階ね。江戸のレシピを現在にアレンジしたって書いてある。○○御膳っていう感じのランチね。ここの展覧会メニューは冷やし汁粉だって。」
「お昼休憩が1時間だからねらいを定めないとね。」あかりが話しを受ける。
「JRの駅前には、マクドナルドやランチもやってる居酒屋もあるわね、改札出てすぐの所にはビールが美味しい両国カフェだっけ?があるわ。」
「あかりさんのお友達はどうするの?」
笑子がたずねる。
「あ、サンドウィッチ買って来て3階の休憩室で食べるみたい。食いしん坊、備えあれば憂いなし。ふふっ。」
「そうですよね、私も食いしん坊ですよ。」はなが応える。
「笑子さん、売店混んでるかしら?」
「ツアーのお客さんが沢山いますね。丁度、着いたところみたい。」
「そうしたら、私を売店まで連れて行ってくれる?」
「ええ、いいですよ。」
「松五郎は、ここではなさんと待ってて、ごめんね。」
あかりと笑子は博物館の中に入って行った。

外の駐車場で待つはなは、ショコラティエを抱え松五郎のハーネスを持っている。
「はなさん。」松五郎が話し始める。甲高い少年のような声をしている。
「はなさん。お願いがあります。」
はなが、驚いて松五郎を見つめる。
「私からもお願いします。」ショコラティエが、はなの心に語りかける。
「ショコラティエちゃんと一緒にがんばったのだけど、はなさんでないと出来ないことなのです。」
「私の力が足りなかったから。」ショコラティエは、はなをじっと見つめている。
「ショコラティエちゃんの力が足りない事では決してない。それだけはわかってください。」
「私は、何をすればいいの? 出来る事だったらやるわよ。」はなが二匹に優しく語りかける。
「これは、私の感だけど、映画祭に関係のあること?」
「はい。」
「ええ。」松五郎は声に出して、ショコラティエは心で応えた。

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