映画祭物語『思い出そう、大切なこと』第4章 素晴らしき哉、人生

こんにちは、映画祭ブログ担当 ながたです。
みなさま、映画祭チケットのご購入はお済ですか?
また、「1作品だけでいいや」と思っているそこのアナタ!
2作品見なきゃ損ですよ!どちらの作品も素晴らしいのですから・・・。
ブログは、今回から第4章にはいります。
まずは、作品紹介からですけどね。
どうぞ、お楽しみ下さい。

第4章 素晴らしき哉、人生

フランク・キャプラ監督の『素晴らしき哉、人生』このタイトルを聞いて「懐かしい」と感じる方も多いと思います。
物語に入る前に、少し作品の紹介をしますね。
『素晴らしき哉、人生』は、1946年のアメリカ映画。映画祭のチラシのあらすじを引用すると<主人公のジョージは、いつも何処かでツキに見放され、逆境にばかり立ち向かう運命にあった。自分のミスではなく大金を失った彼は、全てに絶望して自殺を図るが、彼より先に一人の男が身を投げる。あわてて、救けたジョージに、男は、自分は見習い天使だと告げる・・・。>という物語。

 若い世代の方にはちょっと馴染みが無いかもしれませんが、昨年公開された三谷幸喜監督の『ステキな金縛り』の中に、この『素晴らしき哉、人生』のお話が出てくるのですよ。小日向文世(こひなた ふみよ)が演じる、向こうの世界から来た管理局公安 段田が、裁判の証人を呼ぶ条件にしたのが、『素晴らしき哉、人生』のDVDを観せること。だったのです。映画の中の小日向文世の衣装は、真っ白いスーツ姿、もしかしたら羽根が生える前の天使であったのかもしれません。また、スティーブン・スピルバーグは「大好きな映画の1本である
」と語っています。

 68年前の映画だから、古いと思うのは大きな間違い、映画が大好きな人は、より大好きに。初めて映画を観る方は、映画の虜になること受けあいです。世界中にある映画の原点とも言える作品です。さらに言うなら、「この映画を観ずして映画を語るなかれ」です。字幕朗読&音声ガイド付きで大きなスクリーンで楽しめるのは、シティライツ映画祭のみですよ。

お時間がある方は、是非、お出かけください。

次回から、第4章が本格スタートします。
どうぞ、お楽しみに。

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映画祭物語『思い出そう、大切なこと』第3章 奇跡 つづき

映画祭ブログ担当のながたです。
みなさん、心あたたまる感想、本当にありがとうございます。
映画祭まであとわずか、今回は少し長文ですが、どうぞ続きをお楽しみください。
       
この『奇跡』は、2011年3月に全線開通を迎えた九州新幹線を題材に、心が離れてしまった家族の絆を取り戻そうと奮闘する小学生の兄弟を中心に描いた感動ストーリー。鹿児島で、母親と祖父母と暮らす航一は、離婚した両親がやり直し、再び家族4人で暮らす日を夢見ている。福岡で父親と暮らす弟・龍之介と連絡を取っては、家族を元通りにする方法に頭を悩ませる航一は、九州新幹線全線開通にまつわる「奇跡」の噂を聞きつけ、ある無謀な計画を立て始める。という物語。
また、公開の際のキャッチフレーズは「あなたもきっと、誰かの奇跡」とあり、映画祭で上映される『素晴らしき哉、人生』にもどこか通ずるところがある。
さらに、余談として映画『奇跡』の劇中、航一と龍之介の父がやっているバンドの名前が「ハイデッガー」と言い、一瞬大阪系のバンドにありがちな名前にも思えるが、哲学書「存在と時間」の著者でドイツの哲学者マルティン・ハイデッガーから得たものではないかという、評論家の意見もある。
と、さらにさらに余談ですが、シティライツ映画祭のチケットは只今、絶賛発売中でーす。
     
さて、勉強会に話をもどすと・・・。
      
 たった今、発表を終えたはなが、ホッとしたような緊張したような複雑な面持ちで音松の話を聞いている。
「うーん、だいたい分かりやすかったけど、航一と龍之介の声が似ていて、ちょっと戸惑うかなぁ~。」
「そうですね、だから、現在のシーンが、鹿児島なのか福岡なのか、そうしたことも分かりづらくなっているかもしれませんね。」
あかりも率直な感想を話す。
「尺的な事もあるけれど、できるだけ主語が必要かもしれませんね。」佐緒里が話しを受ける。
「ああ、そうだね、そうしてくれると助かるよ。」音松が話す。
「音松さんとあかりさんの意見が他に無ければ、はなさんがガイドを作って、困ったり、相談したい事はありましたか?」
「はい、前のシーンの終わりに次のシーンの声が聞こえてきてしまって場面転換のガイドがうまく入らなかったり、あと、子供たちの表情があまりにも自然で、うまい表現が見つからなかったり苦慮しました。逆にすごい満面の笑みなんだけどガイドの言葉づかいによってみなさんの感じ方を決めてしまいそうで迷った箇所もありました。」
参加者の男性が話しはじめる。
「確かに、自分の所も悩みました。こどもの表情の読み取り方が難しいですね。自然な芝居だからガイドも自然にしたいけど、これが一番の考え所ですね。」
佐緒里が話す。
「本当にその通りですね。この作品の良さって子どもたちの自然なよさとか心の動きとか、それを取り巻く大人たちのこととかをわざとらしくなく伝えてくれてるってところ。観る人の現在の環境や子ども時代の違いによっていろいろな感じ方ができるのがいいなと思っていて、そういうことがガイドでより伝わるといいなあと思うんですよね。場面転換のタイミングもこの映画独特のリズムだったりするのでガイド泣かせですね。でも、作りごたえがあって素晴らしいけどね。」
話しを聞いていた音松が話しはじめる。
「しかし、いつも思うけれど第一回目の勉強会は特にワクワクするねぇ、こういったらガイドを一生懸命作ってきてくれた皆さんに不謹慎と怒られそうだけど、このオープニングシーンから皆さんの連携プレーがスタートするだろう、運動会のリレーのように次々にバトンが渡されて最後に大きな盛り上がりになる。そして、チームの結束が強くなる。人のつながりももちろんだけど、皆さんのガイド作りへの思いが強ければ強いほど、ガイドに厚みと深みが増し良いものが完成するんだ。だから、これからどんなガイドが出来上がっていくか本当に楽しみなんだ。」
参加者たちも皆、一様にうなずいている。
    
「じゃぁ、はなさんのガイドについて話し合いを始めましょう。」佐緒里が皆を促す。
      
こうして、『奇跡』の音声ガイドづくりが本格的にスタートした。
      
と、と、と、・・・。そしてここに、もう一つの『奇跡』が生まれようとしていた。
休憩時間、あかりに付き添い、はなが松五郎の隣に立っている。
はなが小さい声で松五郎に話しかける。
「さっきは、ありがとう。」
「くぅーん。」と松五郎。
「ねえ、やっぱり話せるんでしょ?」はなが、いたずらっぽく松五郎を見る。
「くぅーん。」松五郎があかりを見やる。
「あぁ、そう言う事?」あかりは松五郎が話せることを知らないと理解した。
はなは、松五郎にウィンクすると、
「あかりさん、今日、お時間があったら家にいらっしゃいませんか。」と言った。
松五郎の尻尾が、シャキッと立つ。
「時間は空いていますが良いのですか?」
「ええ、どうぞ美味しいお菓子もあるし、ショコラティエも会いたがっていますから。」
「くぅーん。」
「あら、松五郎も会いたがってるみたい。じゃあ、伺います。」あかりが笑顔でこたえる。
松五郎は、多分?満面の笑み?で、あかりを見上げると尻尾を大きく振った。

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映画祭物語 『思い出そう、大切なこと』第3章 奇跡

映画祭ブログ担当 ながたです。
映画祭まであと1ヶ月。
がんばります。

映画祭物語 『思い出そう、大切なこと』 第3章 奇跡

JR王子駅の改札。
「お待たせしちゃって、ごめんなさい。」
桜井はなが、改札口で待っている音松に駆け寄る。
「あー、いやいや、大丈夫ですよ。じゃぁ、行きましょうか。」
音松の声に促され周りにいた人々が、歩き始める。

今日は、『奇跡』音声ガイド勉強会の第一日目、なのである。
  

駅から程近い、北とぴあ(ほくとぴあ)にある、ボランティアセンターのサロンコーナーには、
大型テレビが置かれ、既にDVDもセットされ、リーダーと佐緒里が、当日の発表者からあらかじめ送られていた原稿をコピーしている。
  
「音松さん、おはよう。リーダーです。」
「おぅ、リーダー、今日はよろしく頼みます。」
はなを始め、他の参加者たちが席に着く。
  
「じゃあ、始めましょうか。」リーダーが話し始める。
「最初に、映画『奇跡』について少し、お話しますね。
この作品は、6月24日に江戸東京博物館大ホールで行われる、シティライツ映画祭で上映されるのだけど、何故この作品になったか?
それはね、お年寄りでも子供でも、もちろん若者も、それぞれ感じ方は違うかもしれないけれど、心の中に暖かな温もりが宿ること。なんて、とっても漠然としているけれど、私たちが存在している事の大切さだったり、仲間との絆だったり・・・。主人公の子供達と一緒に、奇跡を願いながら、自分にとっての大切な事を思い出させてくれる作品でした。他にも沢山候補があったけれど、やっぱりこの映画が一番でした。なので、映画祭にいらっしゃる方々に、この映画の温もりをちゃんと伝えられるように、ガイド作り、がんばりましょう。」
   
 参加者たちは、緊張した表情を浮かべている。
その中で、佐緒里が話し始める。
   
「リーダー、ありがとうございます。今日は、吉本佐緒里です。本日は、5回にわたる映画『奇跡』の音声ガイド勉強会の1回目。ざっと、流れを確認すると1回目から4回目までは、各自分担して製作したガイドを発表して、ディスカッション。まず、モニターの音松さんとあかりさんの聞きづらい言葉やわかりにくい表現をきいてそのあとに、みなさんでディスカッションを行っていきます。最後の5回目はディスカッションを受けて修正したガイドを通して聴いて検討をします。検討会をうけて、監修者が更に修正を行います。みなさん、かなり固くなっていらっしゃるので簡単な自己紹介をお願いします。」
  
参加者の簡単な自己紹介のあと、いよいよ最初の発表が始まる。
発表者は、はな。マイクを持つ手が少し震えている。
  
「くぅーん。」あかりの足元にいた松五郎が、そっと囁いた。
「大丈夫、落ち着いて・・・。」
  
はなは、声の主がわからずキョロキョロしている。
再び、松五郎が囁く。
「ショコラティエちゃんからの伝言、頑張ってって・・・。」
  
驚いて足もとをみるはな。
松五郎は、ふわふわの尻尾で はなの足先をなでると、何事もなかったように、伏せをする。
  
テレビから、映画『奇跡』のオープニングシーンが流れ始めた。
   
第3章 つづく・・・。

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映画祭物語『思い出そう、大切なこと』第2章 始まりのとき つづき

映画祭ブログ担当 ながたです。
更新が遅れてしまってごめんなさい。
何となく、皆さんからの反応が無いので、気持ちが萎えています。
どうか、どうか、感想などお寄せいただけたらうれしいです。

それでは、続きをどうぞ・・・。

   エルザは、びっくりしたような表情を浮かべた。
「えっ? 覚えていてくれたの?」
「うん、でも、名前は忘れてたんだ。ごめんね。あ、あの時もごめん。僕のせいで転んじゃったんだ。傷は・・・?」
元気はエルザの膝に目をやった。
「そんな、ありがとう。覚えててくれて。」
   
二人のやりとりを聞いていた、音松が「これが、奇跡。人生って素晴らしいねぇ、よぉ、ご両人。」と声をかけた。
元気は照れまくり、エルザは、はにかんだ。

この音松の言葉がきっかけではないけれど、第5回シティライツ映画祭の作品は、
洋画『素晴らしき哉、人生』(1946年/アメリカ/モノクロ/130分)
邦画『奇跡』(2011年/日本/カラー/127分)

に決定した。

第二章 始まりのとき 終わり。

と、只今、チケット発売中!
詳しくは、下記、ホームページをご覧ください。、
http://www.ne.jp/asahi/city/lights/eigasai/2012.html

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映画祭物語『思い出そう、大切なこと』第2章 始まりのとき  つづき

映画祭ブログ担当のながたです。チケット発売も開始、いよいよ映画祭へ向けてカウントダウンですね。
先日、ブログの取材をかねて『奇跡』の音声ガイド勉強会に飛び入り参加してきました。初めての方もそうでない方も、みなさん一生懸命に取り組んでいます。また、『素晴らしき哉、人生』は在宅チームでの作成ですが、こちらもパワー全開で頑張っています。そのもようも、のちのち、物語の中で紹介しますので映画祭と併せて楽しみにしていてくださいね。
では、物語のつづきをどうぞ!!

「自己紹介が終わったところで、実行委員の仕事についてお話をしておきますね。」リーダーが話し始める。     
「まず、1番目は、映画の選定。映画の選び方は毎年違っていて、アンケートをとったり、映画通にきいてたりしていました。そこであげられた候補作品を実行委員全員が観て判断する。まぁ、映画は観ずして語るなかれ!と、言う事かしらね。」       
そこで元気が質問した。       
「あのぅ・・・。実際に見る本数は何本くらいですか?」     
「そうですね、洋画、邦画あわせて最低でも、10作品は観るかな? 時間的に厳しいと思うけど出来るだけ観て欲しいですね。二番目は、協賛集め、ま、会社で言うと営業ですね。広告協賛だったり、イベント協賛だったり、映画祭を運営するための資金をお願いにまわります。3番目は、映画祭そのものの宣伝。あとは、パンフレットの製作だったり、音声ガイド作りや洋画の字幕朗読ボランティアのコーディネイトだったりと、結構忙しいですね。がんばって行きましょう。」      

「今日は、まず作品選びについてですね。」  
「昨年はどのように決めたのですか?」桜井はながたずねた。  
「3回、4回は投票制でした。今年は、違う方法がいいかなぁと思うのですが・・・。」  
「そうだなぁ~、いっつも協力してくれる映画通の仲間に聞いてみるっていうのはどうだい?」音松が言った。
「あ、それいい!」佐緒里がこたえる。
「それじゃ、その方たちと連絡をとって、メーリングリストに流しますので、その中から作品を決定しましょう。」
         
こうして、最初の実行委員会が終了した。
帰り際、エルザが元気に声をかけた。
「あの、只野元気さんって只野しづ先生の・・・。」
「えっ?あ、そうですけど・・・。」元気が、驚いた様子でこたえる。
「やっぱり、うれしい、逢えてうれしい。」エルザの瞳が潤んでいる。
元気は狼狽えている。  

「えっ?あの、えっ?」
その様子を見ていた佐緒里が声をかける。
「元気くん、もう女の子を泣かせてるの?・・・エルザちゃん、どうしたの?」
「私の初恋の人・・・。子どもの頃、夏祭りで手をつないだ元気君。」
「あの時の・・・、俺も会いたいと思ってた。」

  つづく・・・・。

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映画祭物語『思い出そう、大切なこと』 第2章 始まりのとき

映画祭ブログ担当のながたです。
映画祭のチケット受付も開始しましたね。
ブログも、第2章に入ります。
感想などをCLCにアップしていただけるとうれしいです。
では、早速つづきをどうぞ!
    
第2章 始まりのとき

東京・田町

 JR田町駅から程近いところにある東京都障害者福祉会館は、いつも賑わっている。
障がいのある方やボランティアの人々が無料で使える施設であるため、いくつもある集会室、娯楽室からは、陽気な歌声や楽しげに語らう声、大正琴やピアノ演奏などが聞こえる。
   
  会館2階奥にある、児童室A。児童室と言っても子供向けの部屋と言うことはなく、20人程度が入れる普通の会議室である。扉には、「CityLights」とアルファベットで書かれたボードがセットされている。
    
「今日は、お集まりいただいてありがとうございます。」
リーダーが、穏やかなトーンで話し始める。
「これから、みなさんと第5回シティライツ映画祭へ向かって頑張って行こうと思います。よろしくお願いします。まずは、順番に自己紹介をお願いします。」
「えーっと、じゃあ、音松さんから。」
「はーい、音松です。詳しい紹介はいいやなぁ、よろしく。ほい、次は佐緒里ちゃん。」
資料を見ながら、紙コップのコーヒーを飲んでいた佐緒里が、驚いて顔を上げる。
「あ、はいっ。あ、ごめんなさい、自己紹介ですね。 こんにちは、吉本佐緒里(よしもと さおり)です。よろしくお願いします。・・・じゃあ、次は、元気くん。」
「えっ?」
元気は、驚いて立ち上がった。
「どうも、只野元気(ただの げんき)です。吉本さんと音松さんに誘われて映画祭実行委員に応募しました。みんなの力になれるように頑張ります。じゃあ、次は隣の・・・。」
元気が隣に座っている女の子を見やる。女の子は、友達に促され話しはじめる。
「初めまして、皆野エルザ(みなの えるざ)です。前回の映画祭でとても感動して、字幕朗読やいろんな事、私がやれる事、頑張りたいと思って友達と参加しました。よろしく!次は、友達の七海です。」
「みなさん、初めまして。白保七海(しらほ ななみ)です。大学に入って、エルザさんと友達になって、映画の音声ガイドに興味を持ちました。私も前回の映画祭、映画はもちろんだけど、会場に溢れるパワーに圧倒されました。実行委員がんばります。次は、こちら。」と言った途端、伏せていた盲導犬と目が合った。
「くぅ・・・。」松五郎が、鼻を鳴らす。
「あぁ、私ですね。みなさん、こんにちは。私は、木下あかり(きのした あかり)と言います。今、ちょこっと鼻を鳴らしたのは、パートナーの松五郎です。よろしくお願いします。今回は、二人の方をお誘いして応募しました。では、次は、広田さん、どうぞ。」   
「こんにちは、初めて参加します広田笑子(ひろた しょうこ)と申します。こちらの、木下さんが私のお店に来て下さったことがきっかけで、ご一緒させて頂くことになりました。よろしくお願いします。次は、先ほど知り合った・・・。」
「初めまして、桜井はな(さくらい はな)と言います。私は、木下さんの対面朗読を担当する事が多く、映画のお話もその時によく伺っています。どうぞよろしくお願いします。」

この時、あかりの足元に伏せていた松五郎は、ショコラティエちゃんに思いをはせ、淋しげな表情を浮かべていた。
  
つづく・・・。

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映画祭物語『思い出そう、大切な事』第一章 出会い <エピソード3>つづき

映画祭ブログ担当のながたです。
早速、お話の続きをどうぞ!

「えっ?、そのお話をご存知なんですか。」
笑子は、驚いてたずねた。
「えぇ、存じています。なので、ベルが鳴るたびにとても幸せな気持ちになるのです。」

「くぅーん。」その時、盲導犬が、人懐っこい様子で女性の足元に伏せをした。
「あら、松五郎、お仕事中でしょ。」女性は、盲導犬に声をかける。
松五郎は素知らぬ顔で、再び「くぅーん。」と鳴いた。
「まぁ、盲導犬なのに珍しいお名前ですね。」
「ふふっ。」
女性は、それには答えずに微笑むと、
「あなたも、天使のお話をご存知なのですね。」と、たずねかえした。
「ええ、何処で聞いたかは、忘れてしまったのですが、たくさんの天使が生まれるといいなあ、と思ってお店のドアにベルを付けたんです。ドアには羽根もディスプレイしているのですよ。」
笑子は、そう言うと女性の手をとり、ドアの羽根に触れた。
「まあ、ステキ。ベルにも触って良いですか?」
「もちろん!」笑子は女性の手をベルに添えた。
チリンチリン ベルが鳴る。
すると、松五郎が天使のクリスマス飾りをくわえ、笑子の足元にやってきた。
「えーっ、松五郎くん、すごい。」笑子は思わず大きな声を出した。
松五郎は、得意げな顔をしている。
「何があったのですか?」女性は心配そうな顔になっている。
「いえ、松五郎くんが天使のクリスマス飾りをくわえて来てくれたものですから、驚いちゃって・・・。」
「あの、商品ではないのですか?ごめんなさい。おいくらですか?」
女性の問いに、笑子は、
「お代は要らないです。これは、ご来店のプレゼントです。」と答えた。

「でも、それでは・・・。」申し訳なさそうにうつむくと、ハッとして顔をあげた。
「ベル、クリスマスベルを譲ってください。」
「ありがとうございます。」笑子は、お店の奥の棚から、木箱に入ったクリスマスベルを出してきた。
「こちらのベルは如何ですか?」 チリリン。 笑子がベルを鳴らす。
「素敵な音、こちらをください。」足元の松五郎も満足そうに鼻を鳴らす。
「ありがとうございます。」ベルを包み始めた笑子に、女性がためらいがちに話しかける。

「あの、初めて逢った方にこんなことを言った事はないのですが、もしも、映画がお好きだったら、私と一緒にお出かけをして下さいませんか?」
恥ずかしそうに俯く女性。松五郎は、エールを贈るように女性を見上げている。
「お休みの日だったら、いつでも。」
 笑子は、この出会いに何か運命的なものを感じた。

<エピソード3> おわり。
次回から、第2章にはいります。

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映画祭物語『思い出そう、大切なこと』第一章 出会い <エピソード3>

映画祭ブログ担当 ながたです。
桜がはらはら舞い、穏やかで気持ちの良い季節になりました。
今日から、エピソード3のはじまりです。

<エピソード3>

 「あ、その羽根は入口のドアにディスプレイしてください。」
 広田笑子(ひろた しょうこ)は、大学卒業依頼、8年勤めた会社を辞め、クリスマスショップの開店準備に大忙しの日々を送っている。
同期入社の仲間たちは、退職すると聞いて、てっきり寿退社だと思っていたが、起業という退職理由に皆、驚いていた。
鹿児島出身の笑子は、家が菓子店を経営している事もあり、ものごころついた頃から小さくても自分で何かお店をやりたいと思っていた。

 東京の大学に進学したとき、下北沢や原宿によくある、6畳一間程度の小さなスペースのお店を見て、「これだ!」と、心に決めた。
当時は、アクセサリーショップをやろうと思っていたが、どのお店も似たり寄ったりで個性が無いように思えた。
そして、たまたま雑誌で読んだ一年中クリスマスグッズを売っているクリスマスショップに目が留まり、
またまた、「これだ!」と思った。それから10年、明日、いよいよ開店。

 チリンチリン 羽根の取り付けが終わったドアのベルが鳴る。
「天使が生まれた。」笑子は、クスッとしながらつぶやいた。
何かの童話で読んだのか、誰かから聞いたのか忘れたけど、「ベルが鳴ると、天使が生まれる。」と小さい頃から信じている。
だから、ドアのベルが鳴るたびにとても幸せな気持ちになる。

「いらっしゃいませ」
お店に、盲導犬をつれた若い女性が入ってきた。
「あの・・・、ここは何のお店ですか?」
「クリスマスのグッズを売っているお店です。」

女性はうれしそうに微笑むと、
「ドアのベルの音が、とても綺麗な音で、天使が生まれた、と思ったものですから・・・。」
と言った。

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映画祭物語『思い出そう、大切なこと』第一章 出会い エピソード2 つづき

映画祭ブログ担当のながたです。

早いもので映画祭まであと2か月とちょっと。

桜の便りと共に、だんだんワクワクしてきました。

それでは、続きをどうぞ。

                   

「元気くんよう、プロレスは初めてかい?」
音松がたずねた。
「はい、でも僕はてっきり映画だと思ってきたから何だか驚いています。」
「そうだろうねぇ、でも良かったじゃないか。もしかしたら闘魂を注入してもらえるかもしれないよ。ハハハッ。」
 
遠くから佐緒里の声が響く。
「シティライツでお越しの方! これから出発しまーす。」
 
「音松さん、よろしくお願いします。」
元気が緊張した様子で音松の左に並ぶ。
「こちらこそ、よろしく頼みます。」と言うと、音松は元気の腕をとった。
元気の腕は緊張のせいか、棒のように固くなっている。
「そんなに緊張すると肩が凝るから、力を抜いてごらん。」
「あ、はい。」元気が力を抜く。
「そうだそうだ、いい調子だ。じゃあ、出発だ。」
       

これでは、どちらが誘導しているのかわからない・・・。
       
「音松さん、さっき、プロレスは力道山以来とおっしゃっていましたが、力道山を観ているのですか?」
元気がたずねる。
「観てるよ、すさまじい熱気でな、あれは昭和38年だったかなぁ。東京体育館ってところで行われた、力道山 対 ザ・デストロイヤーの国際試合だよ。」
後に世紀の一戦と言われたこの対戦のテレビ視聴率は、60パーセントを超えたそうである。しかしながら、その年の12月15日、力道山はケンカで刺された傷が原因で、帰らぬ人となった。
ちなみに、この年に日本で公開された洋画は、『史上最大の作戦』『アラビアのロレンス』『大脱走』、邦画では『天国と地獄』『ハワイの若大将』『日本一の色男』などがある。
翌、昭和39年10月10日、東京オリンピックが開会した。
          
「そうなんですか、力道山ってモノクロの映像でしか見たことがなくて。」
「俺も対戦の内容はよく覚えてないんだけど、あそこで感じた熱気は今でも忘れないよ」
「熱気?」
「そう、すさまじい熱気。あのころの日本はな、熱気は何処にでもあったんだよ。だけど、あの東京体育館の熱気は群を抜いていた。」
「僕なんか、想像もつかないです。」
「そうかも知れないな。あの頃の日本は元気だった。」
「はぁ・・・。」
「活気、元気が溢れ、おたがいを見守り、助け合いながら本気で頑張っていた。だから、おじいさんが君に元気という名前をつけた気持ちがよくわかるんだ。君のような若者に日本の元気を取り戻して欲しいよ。」
元気は、神妙な顔で聞いている。
「あ、すまんすまん。初めて逢った君にこんな話をして、悪かったな。」
「いえ、ありがとうございます。そういえば、じいさんもそんな事言ってたなぁと思って・・・。」
          
佐緒里の声が聞こえる。
「順番に入場してくださーい。」
          
「あ、着きましたね。」元気が言う。
「楽しみだねぇ。」
          
元気に闘魂が注入されることは、幻に終わったが、(元気は、何故かホッとした顔をしていたけど。(笑))
音松と元気は、意気投合して盛り上がり、
この日行われた、音声ガイド付きプロレス鑑賞会は大成功をおさめた。
そして、ガイドを勤めた二人の精鋭が兄弟の契りを交わした。

エピソード2 おわり。

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映画祭物語『思い出そう、大切なこと』 第一章 エピソード2のつづき。

映画祭ブログ担当のながたです。

早速、続きをどうぞ!

 

「しかし、元気なんていい名前だなぁ。親御さんは幾つだい?」
音松は、初対面とは思えないくらい気さくに話しかけてくる。
「はい、父親は48歳で母は45歳です。」
「そうか、48歳っていうとお父さんはオリンピックの年に生まれたのか。お父さんのお名前を聞いてもいいかい?」
「あぁ、響五(きょうご)って言います。字は音響の響に漢数字の五。なんかじいさんが、オリンピックの開会式にえらく感動して、生まれてくる子供の名前にあやかりたいって、青空に五輪を描いた航空隊をイメージして名づけたらしいです。ちなみに、僕の名前もじいさんがつけたんですけどね。・・・ずいぶん違いますよ。」   

「そうかい?、俺は、おじいさんの気持ちがわかる気がするな。
音松さんは、遠くをみつめて感慨深げな表情を浮かべる。
「そう言えば、今日は何の鑑賞会なのですか?・・・さっきの佐緒里さんの紹介の仕方だとまるでプロレスのイベントじゃないですか。」と、問いかける元気に、音松は、うれしそうに、
「さすがに若いと、勘が、ぁ、イイねぇ~」と団十郎も顔負けの見得を切る。
「えっ?勘が良いと言う事はプロレスなのですか?」
「そうだよ、プロレス観戦だよ。なんか懐かしいじゃないか。プロレスでワクワクした気持ちになるのも、力道山以来だ。あのころを思い出すよ。」音松はしみじみ思った。

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