映画祭ブログ担当のながたです。
みなさん、心あたたまる感想、本当にありがとうございます。
映画祭まであとわずか、今回は少し長文ですが、どうぞ続きをお楽しみください。
この『奇跡』は、2011年3月に全線開通を迎えた九州新幹線を題材に、心が離れてしまった家族の絆を取り戻そうと奮闘する小学生の兄弟を中心に描いた感動ストーリー。鹿児島で、母親と祖父母と暮らす航一は、離婚した両親がやり直し、再び家族4人で暮らす日を夢見ている。福岡で父親と暮らす弟・龍之介と連絡を取っては、家族を元通りにする方法に頭を悩ませる航一は、九州新幹線全線開通にまつわる「奇跡」の噂を聞きつけ、ある無謀な計画を立て始める。という物語。
また、公開の際のキャッチフレーズは「あなたもきっと、誰かの奇跡」とあり、映画祭で上映される『素晴らしき哉、人生』にもどこか通ずるところがある。
さらに、余談として映画『奇跡』の劇中、航一と龍之介の父がやっているバンドの名前が「ハイデッガー」と言い、一瞬大阪系のバンドにありがちな名前にも思えるが、哲学書「存在と時間」の著者でドイツの哲学者マルティン・ハイデッガーから得たものではないかという、評論家の意見もある。
と、さらにさらに余談ですが、シティライツ映画祭のチケットは只今、絶賛発売中でーす。
さて、勉強会に話をもどすと・・・。
たった今、発表を終えたはなが、ホッとしたような緊張したような複雑な面持ちで音松の話を聞いている。
「うーん、だいたい分かりやすかったけど、航一と龍之介の声が似ていて、ちょっと戸惑うかなぁ~。」
「そうですね、だから、現在のシーンが、鹿児島なのか福岡なのか、そうしたことも分かりづらくなっているかもしれませんね。」
あかりも率直な感想を話す。
「尺的な事もあるけれど、できるだけ主語が必要かもしれませんね。」佐緒里が話しを受ける。
「ああ、そうだね、そうしてくれると助かるよ。」音松が話す。
「音松さんとあかりさんの意見が他に無ければ、はなさんがガイドを作って、困ったり、相談したい事はありましたか?」
「はい、前のシーンの終わりに次のシーンの声が聞こえてきてしまって場面転換のガイドがうまく入らなかったり、あと、子供たちの表情があまりにも自然で、うまい表現が見つからなかったり苦慮しました。逆にすごい満面の笑みなんだけどガイドの言葉づかいによってみなさんの感じ方を決めてしまいそうで迷った箇所もありました。」
参加者の男性が話しはじめる。
「確かに、自分の所も悩みました。こどもの表情の読み取り方が難しいですね。自然な芝居だからガイドも自然にしたいけど、これが一番の考え所ですね。」
佐緒里が話す。
「本当にその通りですね。この作品の良さって子どもたちの自然なよさとか心の動きとか、それを取り巻く大人たちのこととかをわざとらしくなく伝えてくれてるってところ。観る人の現在の環境や子ども時代の違いによっていろいろな感じ方ができるのがいいなと思っていて、そういうことがガイドでより伝わるといいなあと思うんですよね。場面転換のタイミングもこの映画独特のリズムだったりするのでガイド泣かせですね。でも、作りごたえがあって素晴らしいけどね。」
話しを聞いていた音松が話しはじめる。
「しかし、いつも思うけれど第一回目の勉強会は特にワクワクするねぇ、こういったらガイドを一生懸命作ってきてくれた皆さんに不謹慎と怒られそうだけど、このオープニングシーンから皆さんの連携プレーがスタートするだろう、運動会のリレーのように次々にバトンが渡されて最後に大きな盛り上がりになる。そして、チームの結束が強くなる。人のつながりももちろんだけど、皆さんのガイド作りへの思いが強ければ強いほど、ガイドに厚みと深みが増し良いものが完成するんだ。だから、これからどんなガイドが出来上がっていくか本当に楽しみなんだ。」
参加者たちも皆、一様にうなずいている。
「じゃぁ、はなさんのガイドについて話し合いを始めましょう。」佐緒里が皆を促す。
こうして、『奇跡』の音声ガイドづくりが本格的にスタートした。
と、と、と、・・・。そしてここに、もう一つの『奇跡』が生まれようとしていた。
休憩時間、あかりに付き添い、はなが松五郎の隣に立っている。
はなが小さい声で松五郎に話しかける。
「さっきは、ありがとう。」
「くぅーん。」と松五郎。
「ねえ、やっぱり話せるんでしょ?」はなが、いたずらっぽく松五郎を見る。
「くぅーん。」松五郎があかりを見やる。
「あぁ、そう言う事?」あかりは松五郎が話せることを知らないと理解した。
はなは、松五郎にウィンクすると、
「あかりさん、今日、お時間があったら家にいらっしゃいませんか。」と言った。
松五郎の尻尾が、シャキッと立つ。
「時間は空いていますが良いのですか?」
「ええ、どうぞ美味しいお菓子もあるし、ショコラティエも会いたがっていますから。」
「くぅーん。」
「あら、松五郎も会いたがってるみたい。じゃあ、伺います。」あかりが笑顔でこたえる。
松五郎は、多分?満面の笑み?で、あかりを見上げると尻尾を大きく振った。