映画祭物語『思い出そう、大切な事』番外編

お待たせしました。

映画祭ブログ担当ながたです。

今回は番外編です。よろしくお願いします。

<エピソード ワンワンッ>          

さて、毎回物語を読んで頂いているみなさん。
エピソード 1 の後は、2 だと思ったでしょう。それが違うんだワン。
だって、1は英語でワンって言うんだよ。
だから「ワンワンッ」って僕たちの出番だと思ったんだ。
エピソード2が始まるまで、僕のお話を聞いくれるよね!

 

    僕は、盲導犬の松五郎と言います。本当は別の名前があるんだけど、身体の色が『ドン松五郎の生活』って言う映画の主人公と同じ真っ白だから、パートナーの友達が名づけてくれたんだ。
それとね、もう一つ映画の松五郎と同じところがあるんだけど、それはね・・・。
「僕は人間の言葉がしゃべれるんだ。」ってところ。
だけど、みんなには内緒だよ。だって僕がしゃべれることがわかったら、みんな、「奇跡だぁー。」って腰を抜かすかもしれないだろう。だから、ナイショ。   

 僕たち盲導犬のご先祖さまは、イタリアのポンペイの遺跡から発掘された絵や13世紀の中国の絵にも描かれているんだけど、ちゃんとした訓練を受けるようになったのは1800年代のヨーロッパだったんだ。  
その後、1900年代になって第一次大戦が始まると戦争で眼が見えなくなってしまった人のもとに、僕たちを送ろうと訓練する学校を作ったそうなんだ。

 僕たちが、日本で働くようになったのも1900年代なんだ。
この頃は僕たちが一緒だと、デパートやレストランの民間施設に入れてくれない事があった。
 2000年代になりやっと、2003年10月から身体障がい者補助犬法が施行され、自由にお店に行かれることになったんだ。

 僕が一緒に暮らしているパートナーのお姉さんは、お出かけが大好き。
お姉さんを安全に快活に誘導するのが僕の主な仕事。
どこにに行くかと言うと、お姉さんの職場はもちろん、映画やデパート、レストラン、要するにいろんなところ。
僕が一番好きなのは、映画館かなぁ~。座席の下に寝そべるのが気持ち良くて、ついうっかりイビキをかいちゃう。
でも、お姉さんは映画を観ながら、ラジオから流れる音声ガイドっていうのを聞くんだけど、ほら、僕たち耳がいいだろ? だから、お姉さんのイヤホンから流れるラジオの音が聴けるんだ。
これって、素晴らしい事なんだよ、だって、座席の下にいても映画の内容がわかるんだもん。
映画はテレビとは違う。あの臨場感は僕もちゃんと感じてる。だけど、うっかりしっぽを出してると、踏まれる事がよくある。その時は「痛い!」って泣けないからグッと堪えるんだ。これも仕事のひとつ。     
お姉さんは、勉強が大好きで、よく対面朗読をお願いするんだ。
近くに住んでいる音訳の人に、家に来てもらう。僕は、その日は朝からうれしくてワクワクしてる。
何でかって言うと、音訳の人が連れてくる小っちゃいワンコ、ショコラティエちゃんに会えるんだもん!
 ショコラティエちゃんは、盲導犬じゃないからレストランに入ることもできないし、映画に行くこともできない。
だから、僕が街の事を教えてあげるんだ。ショコラティエちゃんはちっちゃくて、とっても可愛い。
 「松五郎さん、今度、一緒に連れてって。私、映画を観てみたい。」と見つめられると、
 「あぁ、いいよ」ってうっかり応えそうになるんだけど。
 「だめだよ、僕は仕事で行くんだよ、君と違って散歩じゃない。」と、つい照れかくしで、冷たく言ってしまう。
 「失礼ね、散歩だって立派な仕事よ!ご主人様の健康の為だもの。」と、ムキになる彼女。
 「いや、散歩と一緒にしないでくれ。おまけに僕のお姉さんはご主人様ではなくて、パートナーだ。僕は訓練を受けているし、お姉さんが出張の時は外国にだって行く。」と、凛々しく佇む僕。  
 「そうよね、あなたは他の犬たちと全然違う。だから素敵なのね。今度、外国のお話もきかせてね。」

ショコラティエはそう言うと、小さな身体を、僕に摺り寄せてくる・・・。

松五郎の白い体が、うっすらピンク色になる。さて、二匹の恋の行方は・・・。
 
エピソード ワンワンッ これはこれで続く・・・。

 次回から、エピソードその2が始まるワン。

 

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