映画祭物語『思い出そう、大切なこと』第一章 出会い <エピソード2>つづき

映画祭ブログ担当 ながたです。

前回からのつづきです。早速、物語スタート!

    

♪~闘魂こーめぇえーてぇー と、ジャイアンツファンでなくても口ずさんでしまう発車メロディが流れる プラットホーム。
約束の土曜日、只野元気は緊張した面持ちで水道橋駅に降り立った。
4時の集合時間には、あと20分ある。
映画のタイトルも知らされないまま、元気は改札口を出た。
早めに着いたので、まだ人が集まっていないのだろうと思っていたが、視覚障がい者とガイドさん、盲導犬、ボランティアとおぼしき人が十数人集まっている。
「シティライツの方、受付始めまーす。参加費5000円も用意してくださーい。」
黒地に白いロゴ入りTシャツを着た華奢な女性が、参加者名簿を手に大声を出している。
「ええっ、5000円。」元気は思わず声を出した。
受付をしている女性の耳にも入ったらしく。
「あぁ、タダノゲンキさんね。初めまして、吉本佐緒里です。電話ではどうも。」
「あっ、いえ、こちらこそ本当にすみませんでした。」
「まぁ、それはいいから。今日はよろしくね。じゃぁ、会費。」
「って言うか、5000円もする映画って、もしかしてホールを貸し切ってたりしてるんですか?」
佐緒里はいたずらっぽく微笑むと、急に大きな声で、
「みなさーん、元気ですかーっ!こちらの方は、本日初参加の只野元気さんでーす。」
と、叫んだ。
他の参加者から「おぉー」と、どよめきにも似た歓声があがり、関係の無い通りすがりの人からは失笑がもれた。
「吉本さん、そんな、びっくりするじゃないですか。やめてくださいよ。」元気の顔は、真っ赤になっている。
「ごめんごめん、だって今日しかないじゃん。こんな記念すべき日にタイムリーな名前の人が初参加なんて。大声で叫びたくもなるわよ。」
「そうだそうだ、めでたいよ今日は。よぉ、元気くん握手。」近くにいた視覚障がいのおじいちゃんが手を差し出す。
元気は、思わずその手を握った。
「おぅ、力あるなぁ。今日はよろしくな。俺は、映画音楽好きの松田、略して音松だ。」
音松が手を握りかえす。
「音松さん、今日、元気君とペアでお願いします。元気君、誘導初めてだから音松さんなら安心だもん。」
そう言うと、佐緒里は、他の参加者の受付に行った。

        

「すみません音松さん、今日は、何の映画ですか?」元気は何となく答えが想像できる気がしたが恐る恐る聞いてみた。
「はっ!はっ!はっ!」音松は笑い出すと。
「だから、元気ですか―!だって言ってるだろう。」と元気の肩を叩いた。

      エピソード2は、まだつづく・・・。

 

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