映画祭物語『思い出そう、大切なこと』第4章 素晴らしき哉、人生 つづき

映画祭ブログ担当 ながたです。
平さん、素敵なメッセージありがとうございます。
映画化されたらうれしいなぁ。
では、続きをどうぞ。

東京・調布
駅から見える大きな公営施設「たづくり」、図書館などが入るこの施設にはかなり本格的なスタジオがある。
天井からは幾つものライトが下がり、ラジオ局にあるような大きなマイクが備え付けられている。

「ヒーホー!」映画のワンシーンをまねながら、エルザが緊張した面持ちの字幕朗読ボランティア達を和ませている。
「知ってる?このヒーホーって何の意味か?」隣に突っ立っている元気に話しかける。
「えっ?意味があるの?何だろう。」元気は、しきりに考えている。
「これはね、ロバの真似なんだって、両手の親指をこめかみにあてて、手を開いてひらひらさせてるんでしょ。」
「うん、でも何でロバなんだろうね。」元気は、首をかしげている。
「そうね、七海はガイドづくりをしているでしょ。その検討会の時にロバの真似だって判明したんだって。アメリカの二大政党のどっちかのマスコットがロバだからって説もあるみたいだけど。よくわからないわ、今度聞くのを忘れないように、指に思い出し糸を絡めておこうかなあ。」
「思い出し糸って?」
「ふふーん、元気、ちゃんと映画観てないわね。」エルザがいたずらっぽく微笑む。
「えっ?そんなのあったっけ?」
「まあね、これは音声ガイドが無いとわからないかもね。ふふっ。元気は今日、肩たたき係でしょ。」
「ちゃんと出来るかプレッシャーだよ。それにしても、肩たたき係って言いにくいよなあ。」

肩たたき係、確かにとっても言いにくい係だが、実はとても重要な係で視覚障がいのボランティアさんのセリフを読むタイミングで肩をたたいて、出番を知らせる役割を担っている。他にも、点字台本を持って来たり、皆いろいろな方法で参加している。

「じゃあ、始めまーす。」リーダーの声に、スタジオの皆がシャキッとする。
演出のダンさんが、前に立って話はじめる。
「おはようございます。今日はよろしくお願いします。みんな、緊張してるようなので少し体をほぐしましょう。」

体操のあと、いよいよ録音スタート。
字幕朗読は、ちゃんと聞き取れるように声を出す事、映画の役者さんの演技に合わせる事が求められ、なかなか大変な作業。でも、それによって、聞いている方々に自然にストーリーに入り込んでもらえるのです。
また、それだけ大変な分、セリフが多くても少なくても出番が無事に終了したときには、みんな拍手で、祝福です。

お昼休み、お弁当を食べている元気にダンさんが話しかける。
「元気くん、一人、男の役が必要になっちゃったんだ。頼めるかな。」
「えぇーっ、いや、あの、かたたたた・・・。肩たたき係がありますから。」
「あぁ、大丈夫、最後に録音するから。」リーダーがにっこりしている。
「私もやることになったのよ、元気、一緒にお願い。」エルザが、元気の手を握る。

こうして、元気の人生初の字幕朗読にトライすることとなった。

第4章 おわり。

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