映画祭物語『思い出そう、大切なこと』第一章 出会い エピソード2 つづき

映画祭ブログ担当のながたです。

早いもので映画祭まであと2か月とちょっと。

桜の便りと共に、だんだんワクワクしてきました。

それでは、続きをどうぞ。

                   

「元気くんよう、プロレスは初めてかい?」
音松がたずねた。
「はい、でも僕はてっきり映画だと思ってきたから何だか驚いています。」
「そうだろうねぇ、でも良かったじゃないか。もしかしたら闘魂を注入してもらえるかもしれないよ。ハハハッ。」
 
遠くから佐緒里の声が響く。
「シティライツでお越しの方! これから出発しまーす。」
 
「音松さん、よろしくお願いします。」
元気が緊張した様子で音松の左に並ぶ。
「こちらこそ、よろしく頼みます。」と言うと、音松は元気の腕をとった。
元気の腕は緊張のせいか、棒のように固くなっている。
「そんなに緊張すると肩が凝るから、力を抜いてごらん。」
「あ、はい。」元気が力を抜く。
「そうだそうだ、いい調子だ。じゃあ、出発だ。」
       

これでは、どちらが誘導しているのかわからない・・・。
       
「音松さん、さっき、プロレスは力道山以来とおっしゃっていましたが、力道山を観ているのですか?」
元気がたずねる。
「観てるよ、すさまじい熱気でな、あれは昭和38年だったかなぁ。東京体育館ってところで行われた、力道山 対 ザ・デストロイヤーの国際試合だよ。」
後に世紀の一戦と言われたこの対戦のテレビ視聴率は、60パーセントを超えたそうである。しかしながら、その年の12月15日、力道山はケンカで刺された傷が原因で、帰らぬ人となった。
ちなみに、この年に日本で公開された洋画は、『史上最大の作戦』『アラビアのロレンス』『大脱走』、邦画では『天国と地獄』『ハワイの若大将』『日本一の色男』などがある。
翌、昭和39年10月10日、東京オリンピックが開会した。
          
「そうなんですか、力道山ってモノクロの映像でしか見たことがなくて。」
「俺も対戦の内容はよく覚えてないんだけど、あそこで感じた熱気は今でも忘れないよ」
「熱気?」
「そう、すさまじい熱気。あのころの日本はな、熱気は何処にでもあったんだよ。だけど、あの東京体育館の熱気は群を抜いていた。」
「僕なんか、想像もつかないです。」
「そうかも知れないな。あの頃の日本は元気だった。」
「はぁ・・・。」
「活気、元気が溢れ、おたがいを見守り、助け合いながら本気で頑張っていた。だから、おじいさんが君に元気という名前をつけた気持ちがよくわかるんだ。君のような若者に日本の元気を取り戻して欲しいよ。」
元気は、神妙な顔で聞いている。
「あ、すまんすまん。初めて逢った君にこんな話をして、悪かったな。」
「いえ、ありがとうございます。そういえば、じいさんもそんな事言ってたなぁと思って・・・。」
          
佐緒里の声が聞こえる。
「順番に入場してくださーい。」
          
「あ、着きましたね。」元気が言う。
「楽しみだねぇ。」
          
元気に闘魂が注入されることは、幻に終わったが、(元気は、何故かホッとした顔をしていたけど。(笑))
音松と元気は、意気投合して盛り上がり、
この日行われた、音声ガイド付きプロレス鑑賞会は大成功をおさめた。
そして、ガイドを勤めた二人の精鋭が兄弟の契りを交わした。

エピソード2 おわり。

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