映画祭物語『思い出そう、大切なこと』 第5章 絆とつながりを誓って

映画祭ブログ担当 ながたです。

物語も大詰め、今日と明日で完結しなければなりません。

早速、つづきをどうぞ。

     

元気は、画面に眼をやりながら、この部屋でエルザと一緒に是枝監督の『誰も知らない』を観た時の事を思い出していた。
「ごめん、怖い。」
エルザは、震えながら寄り添ってきた。
元気には、最初、どうして怖いのかが理解できなかった。
「このあと、保護されたの・・・。」肩を抱く元気の腕に震えるエルザの振動が伝わってくる。
「怖かったの、どうなるかわからなかったの・・・。」
「アフリカでのこと?」元気は、初めて見せるエルザの弱々しい姿に戸惑いながらそっと、耳元に語りかけた。
「みんな、いなくなったの・・・、食べ物も無くなったのに、誰も帰ってきてくれなかった。」
「大丈夫だよ、大丈夫だから・・・。」元気は、それしか言うことができなかった。

しばらくして落ち着いて、エルザが話してくれた。
「映画の中の子どもたちの目が、本当に無垢で自然で、自分が親と逸れた時と同じ心だと思ったの。」
「そうか・・・。」元気は穏やかに頷いている。
「本当はとても怖いんだけどそれは後から気づくことで、その時は親や周りの人たちをずっとずっと信じつづけるの。」
「そうか・・・。」
「私の場合はライオンが助けてくれたみたい。そうして、今度は、人間が私を保護するためにライオンを遠ざけたの。それでも私はライオンの家族に戻りたくて追いかけたんだけど、歩いても歩いても追いつかなかった。」
「そうか・・・。」
「アフリカでは奇跡から生まれた子どもと呼ばれてたけど。遠く離れた日本では誰も知らない話だけどね。」
「そうか・・・。」
「ねえ、「そうか」ばっかりじゃない。聴いてるの?」
「うん、エルザが日本に来てくれて良かったなあと思って、ありがとう。」元気が、優しく微笑みかける。
エルザは、いつものようにいたづらっぽく微笑むと、
「さて問題です。今のお話の中に、是枝監督の作品タイトルがいくつ含まれていたでしょう?」と、言った。

今朝のエルザの電話での様子や、こうした日々のなかで、元気は二人のこれからについて真剣に考え始めた。

つづく・・・。

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